急におばあちゃんが泣いた話

年末年始に実家に帰り、久しぶりに祖母にあった。僕の祖母は90歳になり、僕の母と一緒に暮らしている。母曰く、祖母は大分痴呆が進んでいるようで、日常生活もままならなくなってきているらしい。ただ別の誰かが来るとスイッチが入るようで、祖母はシャキッとして、受け答えがしっかりする。初対面の人がみたらボケているという印象は抱かないだろう。しかし母や、長い間一緒に暮らしていた僕にはわかる。祖母の痴呆は大分進んでいる。

「奥さんはどこにいるの?」帰省中にこの質問を何十回と祖母から受けた。また帰省初日は祖母は僕のことを誰だか分かっておらず、僕に対して敬語だった。他にも母から、普段は一日中探し物をしていたり、うまくトイレができなかったり、家にいるのに家に帰ろうとしている、といったことを聞いていた。だから祖母は祖父が入院していることも認識できていないのだろうと思っていた。

祖父は僕が帰省する前日に入院した。発熱により体調を崩して病院に搬送され、検査したところコロナ陽性かつ肺炎だった。正直もう長くはないのだろう。僕と母はそう認識している。祖母にも状況は説明したものの、どこまで理解できているのか僕にはわからなかった。

僕が故郷を発つ日、母と祖母に車で駅まで送ってもらった。その道中、母へ電話がかかってくる。病院からだった。それと同時に後部座席にいた祖母が顔を覆って声を上げた。震えている。最初は笑っているのかと思ったが、嗚咽を上げている。その時になってようやく僕は祖母が祖父の身を案じていたのだと気付いた。病院からの連絡で最悪の可能性を想定し、こらえきれなかったのだ。幸い祖父の様態が落ち着いたという連絡だった。祖母は安堵していた。

電話が切れた後、なぜか祖母はしきりに僕に感謝していた。祖父が助かったのは僕のおかげだと。意味がわからない。申し訳ない気持ちでいっぱいの中、僕は故郷を発った。